MENU ─ オリンピックを知る

オリンピアンズ・ストーリー

オリンピアンズ・ストーリー

この企画は、日本代表としてオリンピックに参加したオリンピアンに、得意分野のお話をご執筆いただくページです。
第3回は1992年のアルベールビルオリンピック冬季大会のノルディック複合団体で金メダルを獲得した三ケ田礼一さんによる「ウインタースポーツと環境問題について」のストーリーをお届けします。

- ウインタースポーツと環境問題 -

温暖化で雪不足が深刻に

現在、地球規模で深刻な温暖化が進み、各国でも対策に取り組むようになってきました。日本でも冷房設定温度を28度にし、その中でも快適に過ごせるようノーネクタイ、ノージャケットの“クールビズ”が企業でも取り入れられ、少しでも温暖化を食い止めようという努力は、われわれスキーに携わる人間にとっても大変喜ばしいことです。といいますのも地球温暖化に伴い、今どの国でも雪不足が叫ばれ、もちろん日本も年々雪の降り始めが遅く、量も少なくなり、溶け始めるのも早くなってきている様な気がします。

写真私は岩手県安代町出身で、小さいころは冬になると雪で家が隠れるほどたくさんの雪が降っていましたが、今は12月になっても雪がほとんど無い年もあります。私が勤務している岩手県の安比高原も、以前なら12月第1週にはスキー場をオープンしていましたが、昨年は12月23日にやっと一部のコースが滑走可能といった状態でした。

実はこのような温暖化現象は私が現役の頃からすでに始まっていたことです。
私たちノルディック複合チームが金メダルを獲得した1992年のアルベールビルオリンピック冬季大会期間中の積雪量が2メートルぐらいだったにもかかわらず、雨も降ったりしていました。これは真冬には非常に珍しいことで、現地の人たちに聞いても“10年ぶりの暖冬だ”と話していたのを覚えています。

年々求められる気象を読む力

雨が降り、水分の多い雪になるとスキー板が滑りにくくなり、クロスカントリースキーのようにストックで押したり足で蹴ったりして、前に進む競技の場合には力が余計に必要となり、どうしても体の大きいパワーのある外国人選手の方が有利になってしまいます。大会当日は天気が回復して良い条件で競技ができ、結果日本は金メダルを取ることができましたが、悪条件の中でも結果を出すには選手の力はもちろん、スタッフの力も必要となってきます。

スキーはワックスの選択が結果に大きく影響を及ぼしますが、私たちについてくれたワックスマンと呼ばれるワックス専門のスタッフが、どのような気象条件であっても滑るワックスを選んでくれたおかげで、結果を出すことができたのだと思っています。しかしそこにたどり着くまでワックスマンは相当の研究と苦労を重ねていたようです。

年々、さらさらとした雪で滑ることが少なくなってきているため、水分を含んだ雪に対応できるようなワックスも次々と改良されているようです。ワックスを選ぶ上で今まで以上の研究と、気象条件を読む目が必要となってくると思います。

写真これは私の高校時代に福島県の猪苗代でインターハイがあった時の話ですが、朝はマイナスまで気温が下がっているため、その時は氷状の雪なのに日中は15度ぐらいまで上がるので、競技が始まる9時ごろには雪が少しずつ溶けだし、11時になるともう雪はぐちゃぐちゃになってしまいます。しかも当時のクロスカントリーの滑走順は、強い選手ほど後からのスタートでしたので、先に滑った選手に比べ、後ろの選手ほど水分の多い雪で滑らなくてはいけませんでした。しかも雪の中に入っているホコリが溶けて雪面に浮いてきて、これがスキー板の滑走面に吸い付いて滑らなくなってしまい、大変辛い競技の経験をしたこともあります。

日本の雪はもともと湿気が多いので、日本で行われる大会ではその後も苦労したこともありました。しかし湿気の多い雪質だからこそ、日本のワックスメーカーは質の高いワックスを作ることで知られ、海外の選手の間でも人気が高いようです。

今まで以上に必要となってくる選手の体力

オリンピックの話を続けると、長野オリンピック冬季大会でも雪不足が関係者を悩ませたそうです。北緯36度に位置する長野県はオリンピック冬季大会史上、最も南にある都市でした。ですから雪不足が大会前から懸念され、その対策としてクロスカントリーコース一面に畳が敷かれ、地面の熱によって雪が溶けないようにしたと聞きます。

写真試合会場での雪不足は日本だけでなくヨーロッパでも問題となっています。
試合会場を山の上のほうに変更するとか、山の上から雪を運んで幅2メートルぐらいの雪をコース分だけ敷き詰めるといったことも行なわれていますが、山の上から調達するとどうしても土や木のくずなどが入ってしまうため、あまりいい条件の雪とはいえないようです。

こうなると選手はかなり悪い条件(滑りの悪い)の雪面で滑らなくてはいけないので、かなりパワーが必要となってくると思います。

※競技中の掲載写真はすべて1992年開催の第16回アルベールビル冬季大会(フランス)より。
写真:アフロスポーツ


三ヶ田礼一
三ヶ田礼一(みかたれいいち)
1967年(昭和42年)1月14日岩手県安代町生まれ。青森県東奥義塾高等学校から明治大学へ進学。1989年リクルート入社。1992年アルベールビル冬季オリンピックノルディック複合団体に出場し、金メダルを獲得。現在、岩手県にあるホテルにて営業を担当している。