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アスリートメッセージ

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撃ち終わると気力も体力もなくなるような射撃を一度やってみたい。

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インタビュー中。淡々と話す言葉に熱い思いがある。

福島にとっては3度目の競技人生。京都市の國友銃砲火薬店にテクニカルスタッフとして勤務し、主婦との兼業で競技を再開してアテネオリンピックへも出場したが、2種目とも予選落ち。その悔しさも、競技に対する気持ちに火をつけた。

「警察官の時はある意味仕事だったから、やりたくなくてもやらなきゃいけないっていう部分もありました。でも今は自分から望んでやっているわけだし。やるって言い出した以上はオリンピックでメダルを獲りたいという気持ちも強いですから。今の方が射撃に対して、すごく思い入れがありますし、技術的にも精神的にも向上して、競技を究めたいという気持ちがものすごく強いですね」

現在は大阪の自宅に1週間、東京の国立スポーツ科学センターでの練習が1週間という生活を繰り返している。自宅にいる間の生活では銃に触ることができないが、自宅では、銃と同じ重さの物を持って構える動作の練習をしたり、買い物でも極力歩き、荷物を持つのもウエイトトレーニングのつもりでやっているという。

「物を持って構える練習をする時でもただやるのではなく、脚幅や体の傾け方など、実際にやる時と同じように注意してるんです。だから、警察官時代にはやったことのないイメージトレーニングをものすごくやるようになりましたね。射撃というのは感覚的な部分が非常に大きいので、動作にしても引き金を引く雰囲気とか、腕を上げる時の肩の感覚とかが大切だから、本当は毎日でも銃を触っていたいんです。でもそれをできないから、電車移動とかで何もすることが無い時には必ず、ただひたすらにイメージをしてますね。もう、寝ている時以外は射撃のことを考えているほどなんです(笑)」

かつては「私以上に練習をしている人はいない」という自負を持っていた。だが、今は逆に「私以上に銃に触っていない選手はいない」と胸を張って言えるような状況だ。だからこそ彼女の持ち味である負けん気にも火がつく。

「海外へ行って、コーチと選手がマンツーマンでやってるうらやましい姿を見たら、こんな恵まれた環境にいる人たちに負けたくないって、すごく思うんですよ(笑)。そういう人たちに勝つ面白さはものすごくありますね。だから、海外の試合の方がいい意味でテンションが上がってやる気が出てくるんです。北京オリンピックの出場権を獲ったシドニーの大会(2007年ワールドカップ)もそうだったんですよ」

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練習中。25m先の的はこのように見える。

厳しい環境だからこそ、何とか工夫をしてやっていこうという気持ちは強くなった。そう考えてみると改めて「自分がこれほどまでに射撃を好きなんだ」ということに気がついたという。さらに、道具などにはあまりこだわらないという彼女の大雑把な性格も、今の厳しい環境でトップ選手でいられることを後押ししている。

「射撃の面白さっていうのは、まさに異空間とも言えるような緊張感を味わえることです。私も9年間くらい銃に触ることのない生活をしたから、余計にそれを感じますね。射撃で構えている時も、ただ構えているだけなんですけど、脳味噌を全部使っているような気がするし。だから集中し続けていると、おでこの表面が痛くなってくるほどなんです。ましてオリンピックになるとすごいですよ。ワールドカップでは試合前に談笑している選手たちも、みんな顔が引きつって無口になるんです。そうなったらもう、技術より精神力の戦いですね。アテネオリンピックのエアピストルも、優勝した人はギリギリの8番で決勝に残った人ですからね」

昔はオリンピックというものは雲の上の世界で、テレビを観て応援するだけのものだと思っていた。だが射撃に係わったことでその世界に参加できている。それは夢のように幸運なことだし、趣味でもある射撃競技を続けられることに感謝している、と福島はいう。

「以前、マラソンの松野明美さんがゴールして倒れ込んでいたじゃないですか。私もあんな風に、全部撃ち終わったら気力も体力も無くなってしまうくらいの射撃を一度やってみたいですね。そんなのは今まで一回もなくて、ああすれば良かった、こうすれば良かったと、後悔で眠れない時の方が多いですから。だから北京オリンピックでは、悔いもなくてスカッと、涼しい顔をしている福島實智子を見せたいですよ」

例え北京オリンピックでそんな射撃ができたとしても、彼女は「そんな快感をもう一度味わいたい」と思うようになるに違いない。福島にとっての第3の競技人生は、とてつもなく長くなりそうだ。だがそれを支えるに必要不可欠なものは、国内のライバルの存在でもある。日本の試合でも、オリンピックと同じような痺れるほどの緊張感を強いらされるような、若い選手が登場すること。それが彼女を益々強くさせていく大きな要素であることは間違いない。

(2007.8.2)


インタビュー風景
福島選手からのビデオメッセージ「ライフル射撃の面白さは・・・」を見る
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福島實智子(ふくしま みちこ)

1963年8月23日北海道生まれ。43歳。春日丘高等学校出身、(株)國友銃砲火薬店所属。
音楽を聴くのが好きで、好きな歌手は浜田省吾。
1988年ソウルオリンピック女子25mピストルで銀メダル。2000年シドニーオリンピック、女子10mエアピストル5位入賞、女子25mスポーツピストル5位入賞。2004年アテネオリンピック、女子ピストル25m、女子エアピストル10m出場。2007年シドニーワールドカップで2位、北京オリンピック出場権を獲得。



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