第29回オリンピック競技大会(2008/北京)

ソフトボールのみどころ

日本代表選手団

今大会のみどころ

(1)今大会の目標、チームの特徴(日本チームの特徴/有力選手)

今大会の目標は、ズバリ「金メダル」。これが唯一無二の目標である。銀メダルを手にしたシドニー、銅メダルを獲得したアテネ、残された色は「金」しかない。そのためだけに努力してきたといっても過言ではなく、それを成し遂げるべく「チーム一丸」で大会に臨む。

何といってもMAX 120q/hを記録する剛速球を武器とする「世界最速右腕」上野由岐子(ルネサス高崎)がチームの中心。また、2004年のアテネオリンピック後、一度は現役を退いた坂井寛子(太陽誘電)が現役復帰。「魔球・シュート」を武器に、エース・上野と「二枚看板」を構成する。ここに安定感のある江本奈穂(豊田自動織機)、ブラジル出身でジュニア時代には、世界選手権でブラジル代表として日本とも対戦したことがあるという「異色」の経歴を持つ染谷美佳(デンソー)が加わった投手陣は万全の陣容といえるだろう。

捕手は、乾絵美と峰幸代(ともにルネサス高崎)。乾はアテネオリンピックでは代表に選出されながら一試合も出場機会がなかっただけに、二度目のオリンピックに期すものがある。「上野の恋女房」として日本のホームをガッチリ守る。一方、チーム最年少の峰は、昨年の世界女子ジュニア選手権(U19世界女子選手権)では、キャプテンで4番を務めた逸材。一昨年の日本リーグデビューの際には新人賞も獲得しており、「シンデレラガール」といった存在だ。

チーム最年長で精神的支柱でもある伊藤幸子(トヨタ自動車)。元気者で野性的なフィールディング持ち味の三科真澄(ルネサス高崎)。安定感溢れるグラブさばきと俊敏なバント処理が持ち味の廣瀬芽(太陽誘電)。センス抜群どこでもこなす佐藤理恵(レオパレス21)。高い守備力に定評があり、ショート鄁性カンドをこなす西山麗(日立ソフトウェア)。誰が出場しようと「世界一の守備」のクオリティはいささかも損なわれることはない。アテネで銅メダルを獲得した三科、佐藤もその「リベンジ」を誓っており、その思いの強さが金メダル獲得への原動力となってくれることだろう。

外野は、「ソフトボール界のイチロー」こと山田恵里(日立ソフトウェア)。俊足・強打・強肩を誇る「完全無欠」のプレーヤーが攻守にチームを引っ張る。狩野亜由美(豊田自動織機)は昨年、日本リーグで首位打者を獲得し、山田が持つ盗塁のリーグ記録に並ぶ活躍を見せた。そして、日本の「4番」といえば馬渕智子。通算本塁打、通算打点の日本リーグ記録を持つスラッガーのオリンピックでの「爆発」に期待したいところだ。

2000年のシドニー、2004年のアテネのチームと比較すると、投手力は、「世界一の投手」であり、「絶対的切り札」の上野を擁するだけに、今回のチームが明らかに上といえるだろう。

守備面は、従来から「世界一」と評されており、他の追随を許さないが、その中でも今回のチームの完成度、バランスの良さは群を抜いており、エース・上野を含めた守備力は、まさに「鉄壁」である。

唯一、課題があるとすれば攻撃力。現・女子日本代表監督の斎藤春香(日立ソフトウェア)、宇津木麗華(現・ルネサス高崎監督)、山路典子(現・太陽誘電監督)のような長距離砲はおらず、派手な一発攻勢や一振りで試合を決めてしまう圧倒的な破壊力は持っていない。しかし、全体的なバランスを考えれば、俊足・好打の選手が揃い、代走を必要とするような選手もいないことを考えれば、むしろ相手にとっては穴がなく、隙のない「嫌らしい打線」といえそうだ。

基本的には、好機を確実にモノにし、圧倒的な投手力と鉄壁の守備力で「守り勝つ」ソフトボールが日本の持ち味であり、ロースコアでの競り合いの試合展開に持ち込めれば、「日本のペース」ということになる。

(2)他国の有力選手

世界選手権6連覇を継続中、女子ソフトボールがオリンピック競技となって以来、アトランタ、シドニー、アテネと3大会連続で金メダルを獲得し、一度もその「王座」を譲っていないアメリカが、今大会も金メダルの大本命であることは間違いない。特に世界選手権では11回中8回の優勝を誇り、通算116試合を戦い、106勝10敗。勝率は実に9割を超え、連覇のはじまった1986年以降に限れば、64勝2敗という驚異的な数字を残している。オリンピックでは、アトランタが8勝1敗、シドニーが7勝3敗、アテネが9勝0敗の24勝4敗の成績で、オーストラリアに2敗、日本、中国に1敗を喫しているが、アテネでは9試合で総得点51・失点1の9連勝。圧倒的な強さで3度目の金メダルを手にしている。

その中心となるのは、投手陣ではキャサリン・オスターマン、ジェニー・フィンチの左右の「二枚看板」。ともにアテネで金メダルを獲得しており、オスターマン左腕から繰り出されるライズ、ドロップは「目の前でボールが消える」と形容されるほどの切れ味を誇る。また、「美人選手」としても名高いフィンチは110q/h近い球速を誇り、特にライズの切れ味は抜群。これにMAX115q/hの「大型左腕」モニカ・アボットを加えた投手陣は、まさに「難攻不落」といえそうだ。アトランタからアテネまで、「絶対的なエース」として君臨し、3大会連続の金メダル獲得に貢献し、常にその優勝の瞬間にマウンドに立ち続けてきたアメリカの「国民的英雄」リサ・フェルナンデスがメンバーから外れたことを見ても、その充実ぶりが伺える。

打撃面では、俊足の一・二番コンビ、ケイトリン・ロウ、ナターシャ・ワトリーがその快足で相手守備陣を混乱に陥れ、「現代版ON砲」ジェシカ・メンドーザ、クリストス・ブストスが返すお得意のパターンで得点を量産する。また、唯一4大会連続出場となるローラ・バーグの「4大会連続金メダル」がなるかどうかも注目が集まる。

アテネで日本の決勝進出を阻み、銀メダルを獲得したオーストラリアも侮れない。アトランタ、シドニーで銅メダル、アテネでは銀メダルと常にメダルを手にしてきた強国だけに今回も有力なメダル候補といえるだろう。

投手陣は、現在日本リーグでプレーし、4大会連続出場となるターニャ・ハーディング(佐川急便)、メラニー・ローチ(レオパレス21)が健在。全盛期の球威はないものの、老練なピッチング技術と打者の心理を巧みに読んだ投球術で相手打者を翻弄する。すでに銅メダル2個、銀メダル1個を獲得しているだけに、残されたもう一つの色のメダルを手にするべく、ラストチャンスに賭ける。

打撃陣では、同じく日本リーグ(佐川急便)でプレーするステーシー・ポーターが「核」となる。右打者だがレフトスタンドはもちろんライトスタンドへも軽々と放り込むパワーと高いバッティング技術を有する。投手陣がベテラン頼みだけに、ポーターを中心とする打線がどれだけ援護できるかが、オーストラリア躍進のカギを握っている。

また、今大会の「ダークホース」「台風の目」になりそうなのがカナダ。ロビン・マッキン、ダニエル・ローリー、ローラン・レギュラーが揃う投手陣は強力。いずれも110q/hを超える球威を誇り、ロビン・マッキン、ダニエル・ローリーの両右腕はライズ、ドロップの切れ味も鋭く、いまやカナダが誇る「二枚看板」に成長した。ここにアテネオリンピックの日本戦で完封勝利を挙げている左腕のローラン・レギュラーが戦列に復帰し、投手力に関しては、アメリカ、日本と肩を並べるほどの充実ぶりを示している。

打線も「切り込み隊長」メラニー・マシューズを筆頭に、非常に思い切りが良く、パワフル。1番を打つメラニー・マシューズをどう封じるかがカギとなりそうだ。

今年3月にオーストラリア・シドニーで開催された「NTCインターナショナル」「インターナショナルチャレンジシリーズ」では、日本と互角の試合を展開。「NTCインターナショナル」の予選リーグで日本を破り、決勝では日本に敗れたものの、「インターナショナルチャレンジシリーズ」では日本をはじめオーストラリア、中国といった強豪を抑え、見事優勝を飾っている。このところ国際舞台で目立った成績は収めていなかったが、北京オリンピック「本番」へ向け、急成長を遂げているチームであり、一躍「メダル候補」に挙げられるまでになった。

ホスト国である中国は、アトランタで銀メダルを獲得して以来、1998年の世界選手権、2000年のシドニーオリンピック、2002年の世界選手権、2004年のアトランタオリンピック、2006年の世界選手権と連続して4位に甘んじ、メダルから遠ざかっている。アトランタの銀メダリストでエースとして一時代を築いた大投手・王麗紅をヘッドコーチに起用し、「黄金時代」の再来を狙っており、その手腕に大きな期待が集まる。

これに日本を加えた5チームがメダル争いの圏内にあり、北京オリンピックの第1次予選となった2006年の世界選手権(世界選手権の上位4チームにオリンピック出場権が与えられる。オリンピック・ホスト国が4位までに入った場合は5位まで出場権が与えられる)で出場権獲得を逃し、各地区の最終予選を勝ち上がったヨーロッパ・アフリカ地区代表のオランダ、アジア・オセアニア地区代表のチャイニーズ・タイペイ、北・中・南米地区代表のベネズエラは苦しい戦いとなりそうだ。過去の3大会の結果を見ても、世界選手権で出場権獲得に失敗し、最終予選を勝ち上がったチームの最上位はアトランタでの日本の4位が最高で、メダルを手にした例はない。

その他の特筆すべき事項

(1)話題性のある選手

上野由岐子(ルネサス高崎/アテネ、北京2大会連続出場)
MAX 120q/hを誇る「世界最速」右腕。現役世界最速であるだけでなく、まず間違いなく女子ソフトボール競技における「人類史上最速」の右腕であると思われる。過去の正確な資料がなく、比較が難しいが、女子の選手で120q/hを記録したのは人類史上・上野由岐子だけである。

(2)過去の大会でのエピソード

・1996年アトランタ
任彦麗選手が中国から日本に帰化。「宇津木麗華」としてオリンピック出場をめざすが、オリンピック憲章の条件(オリンピック憲章第5章「42.競技者の国籍・規則42付則・細則2の要件)を満たしていなかったことからオリンピック出場は叶わず……。日本はその「因縁の相手」中国に予選リーグで3-0と快勝し、「メダル獲得間違いなし」と思われたが、オーストラリアに0-10で大敗。予選リーグ5勝2敗で中国、オーストラリアと並んで同率2位となるが、同率の場合の順位決定規定により、失点差で4位となり、決勝トーナメントの初戦で予選3位のオーストラリアと対戦し、0-3の敗戦。メダルには手が届かず、4位に終わった。
宇津木麗華選手は、オリンピック憲章の条件を満たし、晴れて日本代表入り。シドニーでは3試合連続の本塁打を放つなど、大活躍を見せ、銀メダル獲得の原動力となった。また、アテネにも連続出場。主将としてチームを引っ張り、予選リーグ突破を決めるタイムリー、銅メダルを確定させる決勝打を放つなど、銅メダル獲得に貢献した。

・2000年シドニー
「闘将」宇津木妙子監督率いる日本は、予選リーグから破竹の快進撃を見せ、予選リーグを7戦全勝の1位で通過。決勝トーナメントの初戦も予選2位のオーストラリアを1-0で破り、決勝進出。決勝でも王者・アメリカから4回表に宇津木麗華の本塁打で先制し、金メダルは目前だったが・・・・・・。5回裏に同点に追いつかれ、そのまま延長戦へ。延長8回裏、一死一・二塁のピンチを迎え、ローラ・バーグの放った打球はレフト頭上へ。懸命に打球を追うレフト・小関しおりの差し出したグラブの中にいったんは打球が収まったように見えたが、雨に濡れた芝生に足をとられ、転倒。無情にもグラブからボールがこぼれ落ち、1-2のサヨナラ負けを喫した。
シドニー唯一の敗戦が決勝でのものであったため、大会最高勝率(8勝1敗/勝率0.889)の日本は銀メダルに甘んじ、予選リーグ4勝3敗で4位だったアメリカが決勝トーナメントで3連勝し、金メダルを獲得。「なぜ1敗しかしていない日本が3敗もしているアメリカより順位が下になるのか」など、ソフトボール独特の試合方式であり、順位決定方式である「ページシステム」が物議を醸し出した大会でもあった。

(3)今大会出場までのエピソード

北京オリンピックの第1次予選を兼ねた2006年の第11回世界女子選手権でアメリカに次いで準優勝し、オリンピック出場権を獲得した(世界選手権上位4チーム、オリンピック主催国が4位までにはいった場合は5位までにオリンピック出場権が与えられる)。

(4)国際大会での日本チームの主な成績

オリンピック
1996年アトランタ;4位、2000年シドニー;銀メダル、2004年アテネ;銅メダル

世界選手権
第1回大会(1965年);3位、第2回大会(1970年);優勝、第3回大会(1974年);準優勝、第9回大会(1998年);3位、第10回大会(2002年);準優勝、第11回大会(2006年);準優勝

アジア大会
1990年北京;銀メダル、1994年広島;銀メダル、1998年バンコク;銀メダル、2002年釜山;金メダル、2006年ドーハ;金メダル