第29回オリンピック競技大会(2008/北京)

ライフル射撃のみどころ

日本代表選手団

(1)日本ライフルチームの目標

1992年バルセロナオリンピック以来途絶えているライフル射撃での六つ目のメダル獲得を、今回の北京で何としても実現させることが目標である。今回のライフルチームは4名と少数だが、ベテラン、新鋭のバランスがとれた構成で少数精鋭のチームとなった。さらにここにきて特に調子を上げている選手が多く、16年振りのオリンピックメダル獲得のチャンスを是非ともものにしたい。

(2)日本チームの特徴、有力選手

1. 世界ランキング2位の松田知幸

松田知幸(神奈川県警察)は、現在絶好調で最もメダル獲得が期待される選手である。彼はオリンピックの前哨戦である今年4月の国際射撃連盟ワールドカップ北京大会の50メートルピストル男子で4位、さらに5月の同ミュンヘン大会の同種目で優勝しており、現在の世界ランキングは2位となっている。

彼のピストル射撃の特徴としては、まずその安定してリラックスできたフォームから50メートル先の標的の中心、直径5センチメートルの10点圏に何発でも続けて入れられる抜群の射撃センスがあげられる。さらに持ち前の飄々とした性格に加え、射撃強国ブルガリアで何人ものオリンピックメダリストを育てたエミールコーチから指導を受けたメンタル技術で、精神面の強さにも磨きがかかり、どのような状況のときも決して内面の苦しさ、葛藤を見せないで、落ち着いた笑顔で自分の射撃が続けられるところである。

5月のミュンヘン大会で初優勝した際にも、2位でファイナルに進出し、6点差を跳ね返した大逆転で、優勝を決めている。

2. 5月のワールドカップ銀メダルの山下敏和

今回オリンピック初出場の山下敏和(自衛隊体育学校)は、50メートルライフル伏射と50メートルライフル三姿勢で特に昨年から調子を上げ、国内大会で日本記録を次々に書き換えて、昨年12月のオリンピック最終予選であるクウェートでのアジア選手権に臨み、10メートルエアライフルで見事オリンピック初出場を射止めた。

山下はその昨年からの調子を今年に入っても維持し、5月に行われたミラノワールドカップ大会の50メートルライフル三姿勢で、国際射撃連盟主催大会で初めてのファイナル進出を果たした。さらに山下は同大会の50メートルライフル伏射で本選596点の高得点でファイナルに2位で進出し、1点差の中にアテネオリンピック金メダリストのアメリカのエモンズを含む6人がひしめく激戦の中で、落ち着いた射撃を続け、4発目に9.5点を撃ったものの、それ以外は全て10.2以上の得点で2位を維持し、見事銀メダルを獲得した。

高校時代から抜群の才能ある選手として注目されていた山下は、社会人となって後もメンタル面に課題があり、国内では高得点で優勝しても海外大会ではなかなか実力が発揮できない時期が続いていた。その彼が、海外でも力を出せるようになった契機は、所属である自衛隊体育学校の先輩であり、4回のオリンピック出場を始め、長年日本ライフル射撃界のエースとして活躍してきた柳田勝のアテネオリンピック後の引退だった。

アテネ大会後の日本ライフル陣のトップとして柳田の抜けた穴は自分が埋めるしかない、自分も常に次の目標をクリアできなければそこで引退だとの覚悟を決めて、海外大会にも臨むように気持ちを大きく切り替えた。この結果、大きなプレッシャーのかかるオリンピック最終予選などの試合でも、ミスショットが1発出たとしても直ぐに立て直して10点を撃ち続けられる強い精神力を持ち、今の山下は国際大会でも国内大会並みの成績が出せるようになってきている。

3. メダル圏内にあるソウルの銀メダリスト福島實智子

1988年ソウルオリンピックの25メートルピストル女子の銀メダリストで今回が4回目のオリンピック出場となる福島實智子(國友銃砲火薬店)は、この種目の国際大会での決勝進出者の常連的な選手となっている。昨年5月のワールドカップシドニー大会で得意の速射で297点の高得点をあげて27人抜きの2位でファイナルに進出し、さらにファイナルの速射20発でも201.7点の高得点で、銀メダルとオリンピック出場権を獲得している。

この福島のオリンピック出場権獲得は日本での個人の北京オリンピック出場資格としては第1号となった。

さらに福島は昨年のシドニーに続くバンコク大会でもファイナルで同点首位3人の中に入り、金メダル争いのシュートオフの結果惜しくも銅メダルとなった。また、昨年10月にバンコクで開催された年間ベスト10位以内の選手が競うワールドカップファイナル大会でもこの種目で銅メダルを獲得し、今年に入っても5月のワールドカップミラノ大会は首位でファイナルに進出したが、2点差の中に8人がひしめく激戦の中で2発目に6点を撃ってしまい8位となった。いずれにせよ、この2年間に出場した7つの国際射撃連盟主催大会の25メートルピストルで4回ファイナルに進みメダルを三つ獲得している。

これらの大会でファイナルに進んだ選手達はほぼそのまま北京オリンピックに出場する選手であり、本番の北京での、本人2個目のオリンピックメダル獲得に向けて大いに期待が膨らむ。

福島の射撃の特徴は、何と言っても速射の名手というところにある。一昨年までは、速射の試合最後のところでフォームを崩し失点を重ねる場面があったが、ロスオリンピック金メダリストの蒲池猛夫コーチの指導で、フォームのバランス、重心の置き方などを基礎から見直し、真後ろから見ても芯が1本通ったような姿勢が最後まで崩れない試合運びができるようになり、国際大会のファイナルの常連に復帰してきたと言える。

福島自身も、自分は海外の遠征を積み重ねながらだんだん調子を上げていくタイプだと考えており、4月から5月のワールドカップで上がってきた調子をそのまま北京に持ち込んでいくための最後の調整をしている。

4. エアピストルで安定した力の小林晋

小林晋(岡山県警察)は、シドニーオリンピック後の2001年後半から彗星のように現れた選手で、2002年の初の海外大会出場となったアジア大会の50メートルピストルで8位に入賞するなど、鮮烈なデビューを果たしたが、アテネオリンピックの出場権は逃していた。

その小林は、アテネ大会後にエミールコーチから本格的な指導を受けるようになり、海外大会での特にエアピストルで安定した力を出せるようになった。2005年の東アジア大会でエアピストル5位、50メートルピストルでも3位、2006年のワールドカップミラノ大会エアピストル8位入賞などの戦績を上げてきており、松田よりも先にオリンピックの切符を手にする勢いがあった。

最終的には、昨年12月の北京オリンピック最終予選のアジア選手権での初日に行われたエアピストルで578点で6位となり、オリンピック出場権を獲得したがまだ国際大会でのメダルは東アジアでの銅一つのみの戦績に止まっている。

小林の射撃は、プレッシャーの高い最初のシリーズで失点があっても、直ぐにそれを挽回でき、中盤から終盤近くまで高得点を続けられる戦いぶりにある。しかし、ワールドカップでまだメダルが取れていないのは、得点に対する強い執着心が、最終段階で結果を意識しすぎて最後の数発でもったいない失点を重ねてしまうようなところに課題があり、そのようなメンタル面の強化も含め、エミールコーチのオリンピックに向けた最後の指導を合宿で受けている。

後輩であった松田の活躍にも大きな刺激を受けており、北京オリンピック本番での松田との男子ピストル精密射撃種目でもダブル入賞も夢ではない。