第29回オリンピック競技大会(2008/北京)

馬術の解説

日本代表選手団

オリンピックでは馬場馬術、障害馬術、総合馬術の3種目が実施される。

(1)馬場馬術競技

日本は団体出場枠を獲得しており、3人馬でチームを編成する。なお、3人馬ともに個人戦にも出場する。全部で50人馬が出場する。

馬場馬術競技は、馬の動きの美しさを競う採点競技である。馬がいかに躍動的に美しくステップを踏むか、正確な図形を描くかがポイントで、演技内容が決められている規定演技と、必須の要素を自由に構成して音楽に合わせて行なう自由演技があり、人馬のハーモニー、動き、美しさがみどころだ。

馬の調教進度に応じたさまざまなクラスがあり、日本馬術連盟では第1課目から第6課目までのクラスが定められている。また国際馬術連盟ではセントジョージ賞典、インターメディエイトT、インターメディエイトU、グランプリの課目があり、グランプリが最高レベルである。

オリンピックで実施されるのは、もちろん最高レベルのグランプリ。このグランプリには、《グランプリ2003(B)》(通称グランプリ)と《グランプリスペシャル2003》(通称グランプリスペシャル)、《自由演技グランプリ》(グランプリキュアと言われることもある)の3つがある。

なお、グランプリクラスで実施される運動課目をいくつか紹介すると・・・

・パッサージュ:馬体を収縮させ、肢を高く大きく上げて行う、弾発のある速歩。
・ピアッフェ:馬体を極めて収縮させ、肢を高く上げた弾発のある、その場で足踏みをしているかのような速歩。
・ピルーエット:後肢を中心にその場で回転する運動。内側の後肢が軸となる。軸肢はコンパスのようにその場に固定するのではなく、あくまでもステップを踏まなければならない。
・フライングチェンジ(踏歩変換):馬の駈歩には右手前と左手前があるが、それを空中で入れ替える。まるでスキップをしているように見える演技で、グランプリでは2歩毎(2ほごと)および歩毎(ほごと)での変換が要求される。

・・・などがあり、これらの高度な運動によって構成されるグランプリでは、選手と馬が一体になって華麗なダンスを踊っているような演技を披露してくれる。
採点は5人の審判員によって行われる。項目毎に10点満点で採点し、その合計点を満点で除して出した得点率によって成績を決定するものである。得点率は小数点以下第3位まで表示されるもので、5人の審判員の得点率の平均(最終得点率)がその人馬の成績となる。

【団体決勝戦 兼 個人第1次予選】
団体決勝戦 兼 個人第1次予選は《グランプリ》で行われる。これは演技内容がすべて決められている規定演技で、参加人馬はみな同じ演技する。団体で参加する国は3人馬の得点率の合計がチームとしての成績となる。3人馬の合計が同じだった場合には、チームの中で最も得点率の低い人馬どうしを比較し、より高い人馬の所属するチームが上位となる。

【個人第2次予選】
個人第1次予選の上位25人馬が個人第2次予選に進むことができ、ここでは《グランプリスペシャル》の演技が行われる。これも演技内容がすべて決められている規定演技だが、《グランプリ》とはその構成が異なる。

【個人決勝】
個人第2次予選の上位15人馬が個人決勝に進むことができる。ここで行われる《グランプリ自由演技》は、必須の16の要素を自由に構成し、音楽をつけて演技を行うもので、フィギュアスケートとよく似ている。技術性評価だけでなく、人馬の調和、振り付け、選曲やその解釈・表現などの芸術性も評価の対象となる。
個人成績は、個人第2次予選の《グランプリスペシャル》と決勝の《自由演技グランプリ》の合計で決定し、同ポイントの場合には《自由演技グランプリ》の芸術性評価の高い人馬が上位となる。

(2)障害馬術競技

日本は個人参加枠を2つ獲得している。障害馬術は、決められたコースに設置された障害物を飛越する競技で、いかにミスなく、規定時間内にゴールするかが勝負。クラスによって障害物の高さは違うが、オリンピックレベルの競技では最高160cmにもなる。今回、日本は個人戦のみの参加なので、個人戦のシステムについて紹介する。

【個人予選第1走行】
基準A※を適用するが、タイムレースではない。1位が同減点でもジャンプオフ(1位決定戦)は行わない。同減点の選手は同率の順位となる(タイムによって順位に差がつくことはない)。この競技は個人戦決勝への出場権、ならびに団体戦の出番順の決定のために実施する。

【個人予選第2走行および個人予選第3走行 兼 団体戦】
この競技は2回走行となっており、2日間に分けて異なるコースで行われる。基準A※を適用するが、タイムレースではない。個人予選第3走行に出場できるのは、予選第1走行と第2走行の合計減点による上位50人馬である。

【個人決勝】
ラウンドAとラウンドBの2つに分かれている。いずれも基準A※を適用、タイムレースではないが、ラウンドBのみジャンプオフが行われる。ラウンドAに出場できるのは、ここまでの3回の走行の合計減点による上位35人馬である。ラウンドAの上位20人馬がラウンドBに進むことができる。

【個人順位の決定】
ラウンドAとラウンドBの減点によって順位を決定する。必要な場合にはジャンプオフの減点とタイムによって決定する。

※ 基準Aとは、減点の少ない人馬が、成績が上位になるルールである。減点の対象となるのは次の通り。障害飛越時に障害物を落下すると減点4、また、馬が障害物を飛越するのをいやがって止まってしまったり、逸れてしまったりした場合にもやはり減点4が課される。コースの全長と要求される走行スピードによって決められる規定タイムをオーバーした場合には、4秒につき減点1となる。ただし、そのような“不従順”が許されるのは1回のみ、2回目の不従順があった場合には失権となり、その時点で走行を終えなければならない。また、落馬あるいは人馬転倒は失権となる。(馬術競技においては“失権”と“失格”は意味の異なる用語。走行を上記のような理由により走行を中止しなければならない場合には“失権”を用いる。“失格”はルールを守らなかったり、馬の虐待にあたる行為を行なったりした際に課せられるもの)。

オリンピックでは最高160cm、最大幅(障害物の奥行きのことを指す)2.2m、また高さはなく幅のみを要求される水濠は最大4.5mというボリュームのある障害物が並ぶ。もちろん正確に飛越するテクニックが要求されるが、選手が馬に正しい踏み切りを指示し、それに馬が応えることができれば完璧な飛越・走行が見られるに違いない。

(3)総合馬術

日本は個人出場枠を1つ獲得している。総合馬術は、馬場馬術、クロスカントリー、障害馬術の3競技を同一人馬でたたかうもので、人馬ともに体力、精神力が必要。

【馬場馬術】
馬場馬術といっても前述の《馬場馬術》とは要求されているレベルが違い、グランプリのような馬場馬術的に高度な運動は求められていない。むしろ、馬がクロスカントリーの走行に対応するための調教が充分にできているかを審査される。馬場馬術は採点競技であるが、その得点は減点に換算される。

【クロスカントリー】
総合馬術のメインは迫力満点のクロスカントリーだ。野山に設置された自然に近いかたちの障害物を飛越しながら走行する。丸太を組み合わせてつくった障害物を飛越したり、池の中に飛び込んだり、飛び上がったり。とにかくスリリングな競技だ。また、設置されている障害物は固定されているため、馬が肢を当てても落下することがない。飛越のタイミングを大きくはずしてしまうと、選手が馬とともに転倒する危険もあり、テクニックと勇気が必要だ。
クロスカントリーでは1回の不従順で減点20(同一障害で2回目の不従順は減点40)、トータルで3回の不従順があった場合には失権。また、障害物の飛越時に落馬あるいは人馬転倒をした場合には失権となる。また規定タイムを1秒オーバーするごとに0.4の減点が課せられる。クロスカントリー上での過失は減点が大きいため、ここで何かミスがあると順位が大きく後退してしまうことになる。
人馬の能力、テクニックだけではなく、馬のケアが非常に重要で、特にクロスカントリーの後には、馬の肢を冷やしたり、マッサージをしたり。まさに人馬が力を合わせてたたかい抜く競技なのだ。

【障害馬術】
そして最後が障害馬術。これも前述の《障害馬術》とは要求されているレベルが違い、障害物の高さは最高でも125cm。ただし、前日にはクロスカントリーを走って馬が疲れていることもあり、慎重な走行が求められる。
今回のオリンピックにおいては、最後の障害馬術が2回行われる。最初に団体戦の成績を決定するためおよび個人戦ファイナルへの出場権獲得のための走行が実施され、その中から上位25人馬が個人戦ファイナルに進むことができる。走行中の障害物の落下は減点4、不従順も減点4、ただし2回目の不従順があると失権となる。なお、規定タイムを1秒超えるごとに1点の減点が課される。
個人戦の最終成績は、すべての減点(馬場、クロスカントリー、2回の障害馬術)の合計によって決定する。もちろん減点が少ない人馬が上位である。